『いんとろだくしょん』








ぼく、ド****。
最初から伏字にする理由は察してほしい。
お子さん達に人気のネコ型シリーズと違い、四次元ポケットは装備してない。
その代わり、意志の力であらゆることを可能にするパワーリングは、
強襲に良し、拠点防衛に良しの、宇宙最強の武器だが。
けれど、今は。
ウェイン家の居候で、主な仕事はべビーシッター。
リングは、ブルースが泣きついて来ない限り、使わない。

ブルースは、俺が面倒見てるクソガキ。
普通、**太君は、何かあるとすぐド****に泣きつくもんだが。 (でないと物語にならない。)
コイツは。
この野郎、まず泣くことがない。
ジ****より喧嘩が強いし、**杉君より頭が良い。
その上、資本主義ヒエラルキーの頂点生物、つまり金持ち。
しかも半端ない。
デカい屋敷に住んでるとか、高級車を何台持ってるのレベルじゃない。

普通、そこまで揃うと、まず間違いなく悪人だが、
コイツの場合、もっと厄介で、ややこしい。

ハンサムでプレイボーイの25歳は、頭の中がコットンキャンディーで出来ていて、
世界的企業のCEOとしての仕事は、他人に任せっきりのほったらかし。

そんなのは、お得意の仮面の一つで。
実際は、頭の回転の非常によろしいコイツは、同時に頭の悪い屈折をしている。
そのお利口さんの頭の中で、何をどちらに傾かせるか、ちっとも分からない。
まったく、手のかかるクソガキ。







ハルという名前は、ブルースが付けた。
リングのシリアルナンバーの、アナグラムだ。
















お屋敷の外は、もう夜が真っ暗で。
今日は雲間にシグナルも灯らない。
予報によると、日曜日は雨。
良い子は寝坊しても怒られない。



重厚な装飾の扉を開けると、室内は暗かった。
ちいさな、微かな灯りは、ベッドの傍に一つだけ。
ハルは、後ろ手に静かに扉を閉め、そっとベッドまで歩み寄ると。
ブランケットを掴んで、ばっとめくり上げた。

「よォ、調子はどう」

白いシーツの上の、黒いパジャマ。
案の定、ブルースは至極不機嫌な顔で。
タブレット端末をいじりながら、じろりとハルを見上げる。
その人相の悪さ、人に見せてやりたい。

「そんなことしてるからいつまでも寝れないんだろ」
「身体は横になっている」

減らず口ばかり叩く奴の手から、オモチャを取り上げて電源を落とす。
枕元には "仕事"のファイル。
コピーの何枚かはサイドテーブルから落ち、床に散らかしっぱなし。
一枚拾って、「グロっ」とハルは呟いた。
そのままぽいっと手から放し、ベッドに腰を下ろしたハルを、
ブルースはつまらなそうに眺め、しかし、所在なく投げ出したままの腕。
疲れた人のように、目をつむり

「目が覚めてからまだ63時間しか経ってないんだ。
 眠れるはずがないだろ……」

おつむの中身が、ふわふわのメレンゲであると噂の、若き大富豪は、
真実において、明晰かつ厳格な頭脳の持ち主だが。
唯一苦手なのは、休息することだ。
慢性的ワーカーホリック。
あるいは不眠症。
一服盛られなければ、小揺るぎもしない症状を、
不健全と彼の執事は嘆く。

そして、ゴッサムシティにも
稀には平穏な夜がある。
誰も彼も、ベッドの上で
朝まで夢の底。
まるで、眠れないのは
たった一人だけのような。

「……出かける」

と、ブルースが身体を起こそうとする前に、ハルは先程めくり上げた毛布をかぶせた。
その扱いが些かぞんざいなのは、わざとだ。

「寝ろっつってんだろ、バカ」
「……先に、お前を眠らせてやろうか、欠陥品」

頭からかぶせられた毛布を、ブルースは、酷く緩慢にずらす。
そして、下からハルを睨め上げる、冴えた藍色の、剣呑な光。
ハルは、にっと笑った。
お利口さんのブルース坊やは、実際、
チベットの奥地で坊さん達と一緒に修行してた奴とは思えないほど、気が短くて。
暴力的なのだ。
困ったもんだと思う。

「俺も眠っちゃったら、おまえつまんないだろ?」
「煩わしいのがいなくなって清々するな」
「だから、おまえが眠るまで付き合ってやるよ」
「結構だ」

胡乱げに言い切るブルースの身体を、ベッドに乗り上げたハルが膝でまたぐ。
いわゆるマウントポジション。
まず高低差を確保するのは、子守りの基本。

「何か本でも読んでやろーか?」
「お前が読むのは『月刊エアクラフト』ぐらいだろ」
「うん、今月のはWWT特集。 あ、今チョット興味わいたろ」
「そんなことはない」
「じゃあ、添い寝してやろう」
「その前に、何故お前は私の上に乗っている」
「都合がいいからさ」
「何の」
「なあ、絶対眠れる方法、教えてやろうか」
「絶対……?」
「しかも簡単。 おまえは何にもしなくていい」

訳が分からない、という顔で見上げるブルースを、
間近に覗き込むように、ハルは両手をブルースの顔の脇につく。

「ハルが近い」
「そうか?」
「近い」
「ちょっと目つむってみな」
「何故」
「そのままでも別にいいけど。
 ああ、気持ちヨかったら あんあん言ってくれると俺が楽しい」
「あんあん?」

真顔のオウム返しに、ハルはちょっと笑って、
睫毛をぱちぱちさせてるブルースの、唇を奪った。











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面倒を見てる人×面倒を見られてる人。
と、思わせといて、ただの居候×家主です。
ド****、あんまり関係なかった! うふっ
居候なのに家主を襲うとはけしからん、と叱って下さる方は全くそのとおり。
なんかおハルさんのが年上っぽく思えますが、たぶん事実は逆。

これ、出会ってから色々時間経過した後です。 練習なんて色々ぶった切っております。
なんで坊ちゃまがクソガキなのとか、おハルさんが欠陥品呼ばわりされる理由なんかは、またそのうち。
坊ちゃまは既にデレ期突入です、これでも。

ちなみに、シリアルナンバーのアナグラムはちゃんとジョーダンの部分まで作ってあげたそうです。
そして、月刊エアクラフトは実際のところエネミーエース特集。
結構食いつくと思うの。


で、この部分の続きとして、ヤマとかオチとかイミのない話があんですが。

良い子の17歳以下は閲覧禁止です。

平気だから読んでみるわん、という方は↓のリンクからどぞ。


ほんとにヤマとかオチとかイミないよ。




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